財団機関誌 季刊 wa

[インタビューズ]
福岡の温度を上昇させるアーチストたち

小川幸一◎版画家


版と語らう

「刷りがうまくいって
 自分のイメージより
 いいものができて
 ようやく作品として残せる」


 「刷りというのは冒険ですね。色と形は自分の頭のなかで計算してつくれるんですが、刷りの場合は、自分から離れていきますから。刷りがうまくいって、自分のイメージよりいいものができて初めて作品として残せるのです」
 版画家・小川幸一さんはシルクスクリーン版画の魅力をこう語る。

 『自分から離れる』とは、絵筆で直接画布に描くのではなく、テトロンなどの版の織り目を通して色を定着させることにほかならない。版を使うことで、絵筆で描きあげた作品にはない意外性が生まれる。刷りの工程で、意外性と出合うために、版と語りあうことを楽しんでいるのだという。

 小川さんのシルクスクリーンの原体験は、学生時代にさかのぼる。授業で体験したシルクスクリーンが、表現の幅を広げることに気づいた。以来20数年間、シルクスクリーンと語りあうことで新しい作品を生み出してきた。

 作品のモチーフとなるのは、少年時代の記憶にある生き物の形だ。それは『球体シリーズ』という一連の作品として誕生した。球体は、生命の基本的な姿であり、小川さんの記憶のなかにある鳥の卵とイメージが重なりあう。長年、モチーフとして描き続けてきた『球体シリーズ』は、世界的な版画ビエンナーレで受賞を含め高い評価を得てきた。

 『球体シリーズ』の制作に力点をおいてきた小川さんの作家活動は、新しいステージを迎え、ちょうど『球体シリーズ』が孵化するかのように『生物シリーズ』として結実した。

「球体シリーズを続けながら、徐々に作家としてどう生きるか、そのあらわれとしてのテーマをどう展開していこうかと考えるようになってきたんです。だから、これまでの作品を段階を踏みつつ、壊しながら新しいものを見つけていこう。そういうところから生物シリーズをはじめたんです」

 球体が生命の基本的な姿だとすれば、『生物シリーズ』は生物のもつ生命力の神秘や生命の不思議さにさらに踏み込んでいった作品のように感じられる。『球体』から『生物』へモチーフは変わっても、そのテーマは生命力への讃歌である。その作品も版と語りあいながら、誕生した生命に違いない。

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赤い球体 No.12  1990
(福岡市美術館収蔵)
第19回リュブリアナ国際版画ビエンナーレ 美術館買上賞


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生物シリーズ No.3
TWIN BROWN 1997
 

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photo by TAKEI HIDENORI

おがわ こういち
1950年、福岡市生まれ。版画家。福岡市南区に在住。筑陽学園非常勤講師、九州産業大学・九州造形短大非常勤講師。

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