事業レポート

2022年5月12日

アートを介した対話プログラム

3つの「対話型」美術鑑賞会


複数人で一緒にアートをみながら、自由に感想を言ったり、周囲と話したりする中で、想像力の広がりやコミュニケーションなどを楽しむ鑑賞方法があります。

作品をじっくりみて、考えたことを話し、他者の意見を聞く鑑賞体験から、作品について、他者について、自分について、新たな発見があるかもしれません。

 

当財団では、この美術作品を介した「対話」が、多様な人々をつなぐ可能性に着目し、3人のナビゲーターをお迎えして鑑賞会を実施しました。

 

白鳥建二さんとあじびで鑑賞会


全盲の美術鑑賞者、白鳥建二さん。

視覚に障がいのある人とない人が一緒に美術鑑賞するプログラムをこれまで約20年行ってこられました。

 

今回、白鳥さんの活動を追ったドキュメンタリー映画『白い鳥』の上映会と合わせて、10月1日(金)・2日(土)に3回の鑑賞会を実施しました。

※2回の実施予定でしたが、予想を上回る申込をいただき、急遽回数を3回に増やしました。

 

鑑賞会は、福岡アジア美術館のあじびホールとアジアギャラリーにて実施。

ナビゲーターの白鳥建二さんとともに、佐藤麻衣子さん(美術館教育、多様な人との鑑賞の場づくりがご専門のエデュケーター)にもアシスタントに入っていただき、約2時間半のプログラムを行いました。

 

リラックスした雰囲気のもと、各回集まった人々によって、それぞれ違った対話のリズムが流れ、参加者からは自由な発想の意見が飛び交いました。

 

【写真左・中央】白鳥建二さん、佐藤麻衣子さんとともにアジアギャラリーの作品を鑑賞する様子。

【写真右】ギャラリー鑑賞の前後では、自己紹介や鑑賞会参加の感想共有の時間をとりました。

 


 

<参加者の感想(一部抜粋)>

 

「アートって思っていたより自由に楽しめることが知れて良い機会になりました。」

 

「対等な立場で一緒に観るのってホントに楽しい!!」

 

「思い切って感じたことを口から出すと、そこからまた他の参加者の方の意見が生まれ、自分では気づかなかった発見に次から次に出合うことができました。ひとつの作品は何通りもの作品にも見えました。」

 

「誰かの意見を聞くたびに『確かに言われてみれば・・・』と作品に対する印象がコロコロ変わっていくのが楽しかった。障がいのある方へのサービスというよりも、お互いに刺激し合える機会になるから美術館や博物館でこういうイベントをもっと増やしたい。」

 


 

そうぞうとコミュニケーションを楽しむ対話型鑑賞


京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センターの研究員である春日美由紀さんに、「ACOP / エイコップ(Art Communication Project)」という、「みる・考える・話す・聴く」の4つを基本とした対話型鑑賞プログラムを実施していただきました。

 

春日さんのナビゲートにより、モニターに映した作品を16人の参加者で囲み鑑賞しました。

作品の中に何が見えるか、どこからそう感じたのか、

千差万別、参加者それぞれがご自身の経験や想像から、みえるもの、感じたことを話してくださいました。

 

【写真左・中央・右】アジア美術館の作品をモニターにて鑑賞するナビゲーターの春日さんと参加者の皆さん

 


 

<参加者の感想(一部抜粋)>

 

「“アート”は、人が鑑賞して初めて“アート”になると言われた事が“その通り”だなと感心しました。深く見ることで、絵の中に入り込む自分に気づきました。」

 

「人数が多く、積極的な方が多いので、発言には至らない状況でした。2枚目の作品が、実はこわい印象があって、白いところが、爆発で牛がよろけているように見えたからです。他の人たちの発言に、とても言い出しづらい雰囲気があり、ちょっとのまれてしまう感覚もあり、こわかったです。あまりそういう体験はないためびっくりしましたが、自分がそういうのが苦手なんだとわかったことがよかったと思い、最後の2枚目の印象も変わりました。」

 

「はじめてお会いする人、どこの方かも知らない方と、あっという間に打ち解けることができる素晴らしい体験ができた。」

 

「なぜ?どうして?と想いを巡らせながら観るという体験は、楽しさを感じました。初心者にとっては、いろんな見方や着眼点を知ることができて、アートに対する見方と楽しさを理解することが出来ました。」

 


 

ケア×対話型鑑賞


本ワークショップは、タイトルのとおり「ケア」に興味のある方や医療・福祉の現場に関わっていらっしゃる方を対象時実施しました。

 

新型コロナウイルス感染症対策の観点からオンライン開催となりましたが、講師の伊達隆洋さん(アート・コミュニケーション研究センター研究員/京都芸術大学アートプロデュース学科准教授・学科長)から、「ACOP」をベースとした「対話型鑑賞」の基本的姿勢を学びました。

 

臨床心理学がご専門でいらっしゃる伊達さんのレクチャーと鑑賞体験は、対話型鑑賞をしながらも、対人援助や人と人がコミュニケーションを行う上で基本となるような、観察や傾聴、寄り添う姿勢について改めて考える機会となりました。

 

【写真左】伊達さんによる対話型鑑賞のレクチャー

 

【写真右】鑑賞体験の様子。様々な作品や図形を鑑賞することで、視点の違いや深く観ることについて考えました。

 


 

<参加者の感想(一部抜粋)>

 

「アート関係の方が多いのか、普段聞いたり話したりする原点が異なり、大変多くを学びました。またこんな機会があると嬉しいです。」

 

「今日教わったことを生活者(すべての人)が少しでも理解できていると、不要な衝突を防ぐこと(対人関係上のストレス等もかなり減らすこと)ができるものの一つだと思いました。多様性の時代と言われますが、自分の価値観を押し付けたり、押し付けられたり、他者の意見や考えを自分の中の常識や価値観が邪魔をして素直に受け入れられなかったり・・・といったことで悩んだり苦しんだりしている人はまだまだ多いと思います。もともと絵画等が好きで関心を持った対話型鑑賞でしたが、今日参加させていただいて本当に良かったと思います。」

 

「今回のワークショップは、アートだけでなく、対人援助の観点からも対話型鑑賞についてお話いただき、アートとケアの親和性を感じて非常に興味深い内容でした。」

 

「対話型鑑賞を通して、物事に対する見方、考え方が広がる心地良さを味わうことができました。」

 


 

 

関連リンク

「アートを介した対話プログラム」詳細ページ

しらとりけんじさんnote

ACOP(Art Communication Project)

京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センター 鑑賞会レポート

 

 

■開催日時    ▼白鳥建二さんとあじびで鑑賞会
      2021年10月1日(金)10:00~12:30/15:00~17:30
          10月2日(土)10:00~12:30

 ▼そうぞうとコミュニケーションを楽しむ対話型鑑賞
 2021年10月17日(日)14:00~16:00

 ▼ケア×対話型鑑賞
 2021年10月31日(日)14:00~17:00
 

■会場      ▼白鳥建二さんとあじびで鑑賞会
      福岡アジア美術館 アジアギャラリー

      ▼そうぞうとコミュニケーションを楽しむ対話型鑑賞
      福岡アジア美術館 会議室

      ▼ケア×対話型鑑賞
      オンライン開催(Zoom)
■主催等     主催:(公財)福岡市文化芸術振興財団、福岡市
      共催:福岡アジア美術館
      福岡県社会的課題解決に貢献する文化芸術活動推進費補助金採択事業